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    春を待つ 

一年ぶりに雛をだして
こんな顔だったかしら、と思う。
一年ぶりに私と会って
変わったわ、と雛がささやく。

私は、この一年で身につけた
ケガラワシサを目の当たりにしたようで
のそのそと煙草を吸う。

こんな顔だったわ、と雛を見る。
そんなに変わらないわ、と
雛が私を見ている。

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        緑陰  

   この頃空を見ない。
   この頃星を見る気にならない。
   けだるい夏の初め。

「海月がでたの。土用でもないのに。」
「群れをなして。大きな魚も泳いでいた。」

   あなたと逢うと
   マッチ一本の灯ほど明るくなる
   あなたと逢うと
   白く陰気な花が咲く。

   なぜ寂しい?
   寂しくないと決めてしまえば
   寂しくもないほどに。

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